第30回 石西礁湖自然再生協議会を開催しました
2022年12月9日(金)に沖縄県八重山合同庁舎2階大会議室において、「第30回石西礁湖自然再生協議会」が開催され、35団体の個人・法人・行政の団体、11名の傍聴者の方が出席しました。今回は3年ぶりの対面での開催となり、オンラインも併用したハイブリッド形式で実施しました。
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石西礁湖自然再生協議会の様子 |
<第9期新規参加委員の紹介>
はじめに新規参加委員の承認について審議され、次の3個人、2団体の参加が、出席委員の拍手をもって承認されました。
○個人会員
・国立研究開発法人 国立環境研究所 阿部博哉氏
・九州大学浅海底フロンティア研究センター 菅浩伸氏
・国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター熱帯・島嶼研究拠点 安西俊彦氏
○団体会員
・一般財団法人 西表財団
・東海大学 沖縄地域研究センター
<新役員の選出>
新役員については事務局より提案され、以下のとおりとなりました。
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第9期石西礁湖自然再生協議会の新役員 |
新役員は協議会出席者の拍手によって承認されました。
<報告>
事務局と委員から以下の4つの報告がありました。
(1)沖縄周辺海域の今夏の海況について
気象庁沖縄気象台の吉村委員より、沖縄周辺海域の今夏の海況について報告がありました。
気象庁では長期にわたる海洋の観測、解析を続けており、その成果を「海洋の健康診断表」として気象庁ホームページで提供しています。日本列島周辺海域の海面水温は過去100年余りの長期的な上昇傾向が確認され、「先島諸島周辺」の海域では100年あたり0.87℃の上昇が確認されています。
また、2022年の海況としては、8月に沖縄周辺の海面水温は記録的な高温となりました。一方で、9月は台風第11号、第12号の影響で、中旬には沖縄周辺の広い範囲で海面水温が低くなりました。
(2)石西礁湖における白化状況について
環境省石垣自然保護官事務所の大嶽自然保護官より、石西礁湖サンゴ群集モニタリング調査から見た石西礁湖における白化状況についての報告がありました。本事業では毎年同じ石西礁湖内にある31地点でデータを集積しています。
2022年9月時点で全調査地点の平均白化率が92.8%という結果となり、2016年以来の大規模白化現象が起きていることがわかりました。今年度の調査の結果から、2016年と違った傾向も見られる可能性もあるため今後は、2022年12月も調査を行い、その後の状況把握や解析、2016年との比較を進めていきます。
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大嶽自然保護官(環境省石垣自然保護官事務所)による報告 |
(3)令和4年度石西礁湖サンゴ群集修復事業の経過報告
環境省石垣自然保護官事務所の山本上席自然保護官より、石西礁湖サンゴ群集修復事業について報告がありました。昨年度から始まった本事業では、幼生の供給量(源)を増やすことを目的とした@幼生供給拠点の整備、A高水温適応策の検討、幼生が着生しやすい基盤を整えることを目的としたB藻類除去事業を行っています。
幼生供給拠点の整備では、幼生収集装置を使用しサンゴの卵を収集・着床具に幼生を着生させ、その着床具を架台に載せた状態で石西礁湖内に設置しています。初年度と令和4年度で各7,000個、8地点の場所で種苗の着いた着床具を海域に設置していますが、サンゴの成長度合いや、サンゴ以外の付着生物について調べています。
また、高温適応策として、架台上への遮光ネットの設置や、架台自体の深場への移動をこれまで検討しています。遮光ネットは台風時でも外れることなく、遮光率25〜34%程度を保ち、光ストレス軽減の効果は十分にあると考えられました。また、今年度の夏は浅場では高水温の日が続きましたが、深場の水温計測では、竹富島の北側(S28)は、深場では海面よりも1度以上低いことがわかりました。
さらに、かつてサンゴがあった場所を藻場からサンゴに戻すため、昨年度に試験的に海藻の除去を行いましたが、まだ結果として表れてきていませんでした。今年度は藻場除去した場所に幼生を直接放出するなどの改良策を行っています。
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山本上席自然保護官(環境省石垣自然保護官事務所)による報告 |
(4)前勢岳ゴルフ場リゾートからの大量農薬流出と大量地下水汲揚による名蔵湾と名蔵アンパルへの懸念
アンパルの自然を守る会の藤本氏より、石垣島の河川と地下水の特徴と名蔵アンパル、名蔵湾の現生サンゴ群集について報告がありました。
ラムサール条約湿地「名蔵アンパル」は極めて絶妙な環境条件のバランスのもと、豊かな生態系を維持しています。また、その先に広がる海域「名蔵湾」には大規模なサンゴ群集が確認されているほか、近年では世界的にも稀な沈水カルスト地形が見つかるなど未知の可能性を秘めています。 学術研究や観光業・漁業にとっても重要な場所ですが、名蔵に注ぐ集水域で計画されている大型リゾート開発事業に伴って、湧水の流入量減少やネオニコチノイドを中心とする農薬の生物濃縮により、悪影響が生じるのではないかと懸念しています。
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アンパルの自然を守る会の藤本氏による報告 |
<委員の取組発表>
委員から3つの取組について紹介がありました。
(1)国際農林水産業研究センター熱帯・島嶼研究拠点による発表
新委員の国際農林水産業研究センターの安西委員より、「熱帯島嶼環境保全」のプロジェクトについて発表がありました。現在、サトウキビや生態系に着目した技術開発を行っており、石垣島ではサトウキビの土壌流出・肥料削減技術(有機資源施用試験、傾斜圃場での土壌流出試験、深植技術)に取り組んでいます。
また、国際農研では2022年10月26日に石垣市と共催で資源循環を進めるセミナーを開催しました。最終的に、陸域の環境負荷軽減の指針案を作成し、石垣市にとって有益になるよう提言する予定です。
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安西委員(国立研究開発法人国際農林水産業研究センター熱帯・島嶼研究拠点)による報告 |
(2)小浜東礁の移植サンゴの白化と水温について
いであ株式会社の石森氏より、2018年 2月に小浜東礁に移植されたサンゴに関して、移植3〜4年後(2021年5月〜2022年12月)までの追跡調査結果について発表がありました。2022年の夏の高水温で小浜東礁へ移植したサンゴは大部分が白化してしまいました。しかし、一部生き延びる可能性のあるサンゴも残っていることが確認されました。これからもモニタリングを継続し、生き残ったサンゴについて調べていきます。
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いであ株式会社の石森氏による報告 |
<意見交換 テーマ 「いま、石西礁湖で気になっていること」>
会場出席者の4グループ、WEB参加者のグループに分かれ、「いま、石西礁湖で気になっていること」をテーマとして、グループディスカッションを行いました。
会場出席者からは、サンゴの白化、陸域の負荷量や土地改良の状態、石西礁湖が周知されていない・伝えられていないこと、環境学習、高水温に強い回復力のあるサンゴ、深場のサンゴ、周囲の環境、サンゴの気持ちで考えた取組みの推進等、意見あがりました。一方、WEBからは、陸域由来のリン酸の低減とそれを促す社会、夏の海が緑っぽくなった、サンゴが死滅して魚が取れなくなった、ウツボやナマコが激減した等の多くの意見が出され、課題が見えてきました。
今後もグループディスカッションを定期的に開催し、委員の皆さんで「知る」「守る」「伝える」の観点から石西礁湖の自然再生に関する課題解決に向けて議論をしていきます。
<その他>
事務局より、今後の予定のお知らせがありました。3部会と協議会を1回ずつ開催する案内と令和5年1月24日に自然再生協議会の全国会議を石西礁湖自然再生協議会がホストとして開催する予定であることが伝えられました。
配布資料
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